№392| プラスチックを食べていない魚を食べられる日は来るか?

海と陸を繋ぐ「約0.1mmのマイクロプラスチック」サイクルが止まらない

Published on 2021.02.16

TEXT BY: Sachi Yamaguchi


注目されるマイクロプラスチックと海洋汚染

近年、「SDGs」という言葉をよく耳にするようになった。SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、持続可能な開発目標という意味を持つ。そのために、それぞれ大きく17つの目標が掲げられている。

今回は、その目標の14つ目に設定されている「海洋資源」に注目したい。

近年では、プラスチックが海洋環境や生態系に多様な影響を及ぼしていることが問題視されている。

その中でも、現在最も注目を集めているのは、私たちが普段使っている使い捨てのプラスチックだ。例えば、食品などの保存容器や梱包材、ビニールなどが挙げられる。

捨てられたプラスチックは環境中に流出し、最終的に海に辿り着く。その過程を経て、現在世界の海に存在していると言われるプラスチックゴミは、年間800万トンとも言われている。 量にして、ジャンボジェット機5万機分の重さに匹敵するレベルだそう。

しかし、プラスチックはそれだけではない。目に見える大型のプラスチックだけではなく、観測しづらい「マイクロプラスチック」と呼ばれるものも存在する。

これは名前の通り、ミクロレベルに小さいサイズであるため、つい見逃されがちだ。

一見ミクロサイズであれば、大型のプラスチックよりも海洋への影響は少ないように思えるが、実はこれが大きな影響を及ぼしている。

さらに、農林水産省によると、海洋で生きる生物だけではなく、人間である私たちも、このマイクロプラスチックを体に取り込んでいる可能性があると言う。

環境問題に関心が高まってきている今、目で見て分かるような使い捨てのプラスチックだけではなく、こうしたマイクロプラスチックにも注目する必要がある。

そのために、マイクロプラスチックとは何なのか、またどのような影響を及ぼしているのか、私たちに影響はあるのか、といった情報に触れ、もう一度私たちの生活を振り返ってみたい。

そもそも、マイクロプラスチックはどこから排出されている?

知らず知らずのうちに、海洋環境に大きな影響を及ぼしているマイクロプラスチックは、環境省によって大きく2つの種類に分類されている。

この分類が行われたのは、実は今から5年前の2016年。つまり、既にこの頃にはマイクロプラスチックは問題視されていたようだ。

ひとつは、「一次的マイクロプラスチック」と呼ばれるもの。例えば、洗顔料や歯磨き粉といったスクラブ剤に含まれている小さなビーズ状のマイクロビーズがこれに当たる。これは化粧品や洗顔料に含まれていることが多い。

また、私たちが普段使用している様々なプラスチック製品を作るための原料である、レジンペレットと呼ばれる米粒ほどの大きさであるプラスチックの粒も一次的マイクロプラスチックのひとつだ。

この一次的マイクロプラスチックは、私たちが使用した際に下水に流れ、そして海に流出することによって海洋に影響を与えている。

もう一つは、「二次的マイクロプラスチック」と呼ばれるもの。これは、大型のプラスチック製品が環境に流出し、紫外線や外的な力によって劣化し、形が変わることによって、小さいプラスチックになったものを指す。

さらに、マイクロプラスチックの排出源はこれらだけではない。環境省で分類はされていないが、「マイクロファイバー」と呼ばれる繊維状のプラスチックも、マイクロプラスチックのひとつだ。

これは、主に私たちが毎日着る服に含まれているフリースなどの「化学合成繊維」のことを指している。

現在のファッション業界では、衣服を生産する際、ほとんどの繊維をこの化学合成繊維に頼っている。 これらは洗濯などで摩耗し、下水などを通じて海洋に流れ込む。

実際の研究によれば、フリースの合成繊維で生産された布地を洗濯機で洗濯すると、1回の洗濯で1点の衣服から最大1900本以上のファイバーが放出され、またアクリルの合成繊維が使用された服では、1回の洗濯で73万本のファイバーが放出されていたと言われている。

このような様々なマイクロプラスチックは、下水などから川や湖、海洋などに流れ出し、分解されることなく半永久的に残り続け、蓄積していく。

そして忘れてはいけないことは、このマイクロプラスチックが、私たちの生活の様々な場面で、知らず知らずのうちに排出されているということだ。

汚染された魚は、海洋から私たちの食卓へ運ばれる

では、このようなマイクロプラスチックは海洋にどのような影響を与えているのだろうか。

勿論、海をゴミまみれにしていると言う現状も挙げられるが、もうひとつ深刻な問題として、海洋への生態系への影響が挙げられる。

私たちの身近な生態系の中で最も影響を受けているのは、海洋に住む魚たちだ。下水などから流出し、海洋に流れついたマイクロプラスチックを、魚たちが食糧であるプランクトンと誤って飲み込んでしまうのである。

実際に、魚の体内からマイクロプラスチックが発見された例も確認されている。

地中海の魚の体内から見つかったプラスチック
出典:Twitter @5Gyres

また、生態系は食物連鎖で成り立っているため、そうした魚は大型の魚の餌となる。

つまり、マイクロプラスチックを体内に含んだ魚を大型の魚が食べることで、マイクロプラスチックによる汚染が連鎖するのである。

そして考えられるのは、こうした魚が私たちの食卓へ運ばれてくる可能性である。実際、そうした魚を食べることによって、私たちが身体にマイクロプラスチックを取り込んでいる可能性は高いと言われている。

さらに、私たちが自分の体にプラスチックを取り込む過程は、汚染された魚を私たちが食べることだけではない。

その他にも、マイクロプラスチックによって汚染された空気を吸い込むことや、マイクロプラスチックが含まれた水道水や飲料水を摂取することなどが挙げられている。

実際に、WWFによると、私たちが1週間で取り込んでいるプラスチックは、量にして1週間あたり5g、つまりクレジットカード1枚分に相当するとも言われている。

そこで気になるのは人体への影響だが、今のところはっきりと私たちの健康に影響を及ぼすかどうかは分かっていない。

つまり、私たちは知らず知らずのうちに鼻や口からマイクロプラスチックを取り込んでいる可能性があると言える。

想像してみると、かなりゾッとしてしまう。しかし、怖がるだけではなく、そうした事態を産んでしまっているのは私たちであることを自覚することが必要である。

よくよく考えてみると、とてもおかしな話だ。

私たちは普段当たり前のようにプラスチックを使うことによって、知らず知らずのうちに海洋を汚染している。

そして、その汚染された水の中で育った魚たちを一度綺麗な水が入った生簀等に入れ、綺麗なパッケージで売買し「新鮮だ」と言って食べている。

実際に人の体に影響があるかどうか分からないにせよ、こうした話が浮上している今、楽観的に捉えるべきではないと言えるだろう。

トレンドとしての「プラスチック削減」で終わらせないために

プラスチックに関する問題は年々注目されてきており、様々な国や企業で取り組みが行われ始めている。

レジ袋の有料化やプラスチックストローの廃止、使い捨てのプラスチック容器の廃止など、耳にしたことがある人も多いことだろう。

そんなトレンドとも言える「プラスチック削減」の動きだが、今回注目したマイクロプラスチックの問題を見ると、どうやらレジ袋やプラスチックストローなどの撤廃だけでは解決できそうにない。

マイクロプラスチックを生み出しているのは、そう言ったプラスチック製品だけではなく、毎日使っている洗顔料や化粧品、着ている衣服、それらを洗う洗剤などであるからだ。

実際に、花王では、生産している製品にマイクロプラスチックビーズを使用することを廃止している。しかし、こうしたマイクロプラスチックにフォーカスを置いた動きはまだ少ないと言える。

「脱プラスチック」がトレンドになることにより、世の中はプラスチック問題に注目するようになったが、トレンドは移り変わっていくものである。

今、私たちが排出した様々なプラスチックで海が汚れ、魚が汚れ、そしてその魚を私たちは食べている。

こうした現実への対策を、いずれ移り変わっていくトレンドで終わらせてしまうとどうなるかは、誰もが想像できるだろう。

それを防ぐためには、まず海洋に影響を及ぼしているのは何かを知り、自分の使っている物を見直すことが必要となる。

あなたが本当に新鮮な魚を食卓に並べるためにも、今一度、今着ている衣服や毎日使っている洗顔料や化粧品が何からできているかを見つめてみてほしい。

 (TEXT:Sachi Yamaguchi)

SHARE