№624|男性の身嗜みに参入しつつある「メイクアップ」

背景にある社会の変化とマーケットとしての需要

Published on 2021.12.17

TEXT BY: Sachi Yamaguchi


「男性らしさ」が変化してきている

“Toxic Masculinity” という言葉を聞いたことがあるだろうか。

これは日本語で「有害な男性らしさ」という意味で、男性が社会において支配的な立場にいることや、女性に男性への従属を正当化する行為であると定義されている。

言わば、これまでの時代の中で伝統化してきた、男性は強く、たくましいと言ったような「男は男らしくあるべき」というステレオタイプが、フェミニストを中心に「有害な男らしさ」と呼ばれ、「男らしさ」という概念が変化してきているのだ。

その変化の代表例として挙げられるのが、男性のメイクアップだろう。近年、女性だけではなく男性の間でも身嗜みのひとつとしてメイクアップの需要が高まっている。

ここでは、男性のメイクアップに見る「男性らしさ」の変化の背景を追うとともに、男性のメイクアップの今後について考察していく。

男性の「身嗜み」に参入したメイクアップ

男性が生活の中にメイクアップを取り入れたのは、最近始まったことではない。Robb Reportによると、1990年代半ばにジャン=ポール・ゴルチエが「 Le Mâle Tout Beau Tout Propre」を発表し、ベースメイク用品やGuy(男性)とEyeliner(アイライナー)を合わせた造語である「ガイライナー」などを発売した。

出典:パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち Amazon Prime Video

このシリーズは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」に出てくるジョニー・デップのような表情を再現できるほどのバリエーションだったという。また、反対にニキビや傷痕などを隠したい男性のためのベースメイク用品なども、控えめなパッケージと共に販売されていたが、この時代ではまだ男性にメイクアップの需要がそれほどなかったために、こういった男性用メイクアップが主流になることを妨げていたという過去があるという。

それから時代は変わり、近年の日本では夏の日差しが照りつける日に日焼け止めを塗って日傘をさしたり、シャワーを浴びた後や髭を剃った後に化粧水や乳液を塗ったりする男性が多く見受けられる。また、肌の気になるところをカバーすることができるBBクリームやコンシーラーを付ける男性も増えてきており、中にはアイシャドウやリップなどを使ってカラーメイクを行う男性も実際に出てき始めている。

大手メーカーも参入している。左 SHISEIDO MEN / 右 Gatsby the Designer
大手メーカーも続々参入している。左 SHISEIDO MEN / 右 Gatsby the Designer

Robb Reportにもあるように、こうした男性たちの変化の背景にあるのは、SNSの登場によって冒頭で述べた「男性らしさ」の概念の変化し、さらに自撮りの文化があるという意見がある。この記事によれば、自撮りの文化はいつでもカメラを構えていなければならないというプレッシャーにより、カメラに写っている自分自身の外見に目を向かせたという。つまり、男性の外見へのこだわりを加速させたのは、人でもブランドでもなく、スマートフォンのカメラだということだ。

そうして男性が見た目に気を使う風潮に合わせて、コスメブランドも様々な男性向けの化粧品が販売するようになった。最近で言えば、 CLINIQUE for menやKIEHL’S、SHISEIDO MEN、GIORGIO ARMANI…と言った数々の有名ブランドが男性向けの化粧品の開発に身を乗り出している。 それは男性用の洗顔フォームや化粧水、乳液、クリームだけではなく、ベースメイクの領域まで達している。

例えば、2018年に発売された「BOY DE CHANEL」は、マットな化粧水やファンデーション、リップバーム、アイブロウなどのシリーズを発売している。さらに、TOM FORD FOR MEN」では、ESTEE LAUDERのプロデュースにより、スキンケア製品に加えてコンシーラーやブロンジング・ジェルなどを発売している。

こうした製品は、メイクアップに関心のある男性にとって最初の入り口となり、この頃にはアメリカ人の男性の56%が、2018年中に少なくとも1回、ファンデーション、コンシーラー、BBクリームを使用したというデータが出るほどとなった。

他にも、日本のPOLAやオルビスなどは、特にアジアでの男性化粧品需要の高まりに着目し、男性用化粧品の新シリーズを発表している。また、オルビスの子会社にあたるAmplitudeやTHREEなどのブランドをプロデュースしているアクロにおいても、 FIVEISM × THREEというブランドで15種類の肌色のファンデーションを含む男性用メイクアップ製品を発売している。

最近のホットなニュースとしては、YouTuberでありモデルとしても活躍しているKemioが、大人ニキビなどの肌悩みをカバーするBBクリームやコンシーラーを販売する「HUMIO(ヒューミオ)」というブランドを立ち上げた。このブランドは、“性別などにとらわれず、自分を楽しむジェンダーニュートラルなヒューマンのためのブランド”と銘打っている。 

また、実際に化粧品売り場には男性の美容部員の方や、男性に向けた化粧品が店頭で目立つように展開される等、身近な場所でも男性のメイクアップの需要が高まっていることが分かる。

 “Toxic Masculinity”と男性の「美徳」そのものの変化

しかし、そもそもどうして男性にとっての「身嗜み」に、女性特有の文化だったメイクアップが参入してきたのだろうか。それには、冒頭で紹介した「有害な男性らしさ」という概念の広がりが関係している。

「有害な男性らしさ」という概念は、もともと1980年代から存在していたが、近年になって社会一般にも浸透し、使用されるようになった。その背景には、2017年ごろにアメリカの歌手であり女優のアリッサ・ミラノのツイートがきっかけで広まった#MeToo運動が挙げられる。

これは、セクシャルハラスメントや性的暴行、性的ないじめなどの被害を受けた人々が、自分たちの体験を共有するために行った運動である。この運動の中で、従来の男らしさは時に女性蔑視や暴力などに繋がっている、と考えられるようになったことで、「有害な男らしさ」の概念を世間に広めるひとつのきっかけとなったと言える。

「有害な男らしさ」が与える影響は女性だけではなく、男性自身にも及んでいる。というのも、「男らしい」というステレオタイプを押し付けられることにより、いわゆる「男らしくない」男性は、自身の個性や趣味、感情を表現する機会を失ってしまう。これまで同性愛やLGBTといったマイノリティの人々が差別の対象として蔑視されてきたのも、こうした「有害な男らしさ」という像が受け継がれてきたことが原因のひとつとしてあるのだろう。

しかし、現在ではそうしたマイノリティへの寛容化が進み、マジョリティ志向は衰退してきている。例えば、同性愛者やLGBTの人々に対する蔑視も薄まり始めており、反対に蔑視する声に対して非難する風潮が現れている。

近年では、自身が同性愛者であることを公表したり、従来の男らしさに囚われないファッションや趣味を楽しんだりする男性が増えてきている。

代表的なのは、近年世界中でトレンドとなっているK-POPの登場だ。K-POPのジャンルの中で活躍している男性はほぼ全員と言っていいほど、スキンケアやベースメイクはもちろん、アイメイクやリップメイクまで施している。もともと美意識がとても高いと言われている韓国から生まれただけあって、そのクオリティは女性に負けないレベルだと言えるほどだ。

「男性らしさ」の変化の中で、男性の新しい美意識が濃縮されたK-POPの登場により、「男でもメイクをしたい」というマイノリティの声が上がり始めるにつれ、男性の「美徳」そのものが変化してきているのだろう。

高まる男性のメイクアップの需要の背景にあるメイクアップの「芸術化」

「男でもメイクをしたい」というマイノリティの主張の背景には、男性の美徳の変化以外に、メイクアップの芸術化が挙げられるだろう。

そもそも、メイクアップの文化は紀元前のエジプトにおいて登場しており、もともとはエジプトの強い日差しから肌を守ったり、邪眼になるのを避ける魔除けのためだったり、また王族や上流階級の人々が自分の社会的地位を示すためといった、機能的な面が大きかった。

虫除けや魔除け、日光対策などの説のあるクレオパトラのアイメイク

時代が進むにつれ、ルネッサンス期に入ると、紀元前のエジプトに見られた機能的な面よりも、段々と社会的な「美」を追求する女性たちの姿が窺い知れるようになる。「男は男らしくあるべき」と同じように、この頃から女性にとっても「女性は美しくあるべき」というステレオタイプが生まれていたのだろう。現に、近年ではそうした社会における「女性らしさ」に反発する脱コルセット運動というムーブメントも起こっているほどだ。

しかし、近代のメイクアップの変遷を追ってみると、カラーメイクアップが主流になり、女性たちはそれぞれの時代の状況や雰囲気などを汲み取り、メイクアップに反映しているのが分かる。この変遷を、VOGUEが動画にまとめて紹介している。

アイメイク、100年の歴史

この変遷を見てみると、女性たちがそれぞれの時代の状況や雰囲気などを汲み取り、メイクアップに反映してきた様子がよく分かる。

例えば、およそ100年前の1920年には、細く垂れ下がった眉にコールアイライナーを特徴に、20年代に従来の社会や道徳にとらわれず、自由に行動した「おてんば娘、奔放な現代娘」の当時のファッションのことを指すフラッパールックが流行した。

それに対し、1930年のアイメイクを見てみると、濃いアイメイクが特徴的な20年代とは異なり、大恐慌時代の暗い世相を反映したグレーの控えめなアイメイクが特徴なことが紹介されている。

その後に始まった第二次大戦においても、赤いリップがメイクの主役となり、アイメイクはカラーをあまり使用しない控えめなものとなった。こうした変動から、戦争中の女性の心情が読み取れる、と動画でも紹介されている。

戦争が終わった1950年代では、戦争中では失われていたカラーがアイメイクに再び用いられるようになった。この年代から、アイメイクはどのファッションジャンルにおいてもメイクの主役となり、自由に個性を象徴するメイクの”命”とも言えるものになった。

ここから興味深いのは、1970年代からは、化粧とは違ったジャンルとも言える音楽がメイクに影響を与えるようになったということだ。例えば、ヒッピーやディスコルック、モッズ、さらにはパンクなどの音楽ジャンルがメイクに影響を与え、大胆な形のアイラインを引いたアイメイクが流行したという。

続く1980年代ではダイアナ・ロスやグレース・ジョーンズなどのアーティストをリスペクトし、ビビッドなカラーを取り入れたアイメイクが、1990年代にはサイバーパンクやグランジミュージックの影響を受けたアイメイク、そして2000年代に入るとジェニファー・ロペスをリスペクトしたまつ毛を強調したアイメイクがトレンドとなった。

いつの時代であっても、アイメイクはその時代の背景や、一見ジャンルが異なるように見える文化から影響を受けつつ、それをメイクアップに反映しながら個性を象徴してきた。

また、このようにメイクアップによって個性を象徴するのは、男性にも浸透している。

2017年のニューヨークタイムスの記事で、SNSで30万人を超えるフォロワーを持つ10歳の少年が取り上げられている。彼はインスタグラムを開設して以来、自身のメイクアップのルックを紹介し続け、いつしかMACやNYXなどのブランドからも注目を集める存在となった。

彼は自身のインスタグラムのアカウントを「メイクアップのアーティスティックな側面を楽しむための手段」として捉えており、ドラァグクイーンとはまた違った側面でメイクアップを楽しんでいる。その姿は「メイクアップが上手なら、年齢や性別は関係ない」というメッセージを具現化しており、多くの人に影響を与えただろう。

こうしたメイクアップの歴史や、実際にメイクアップを楽しんでいる男性の姿を見ていると、メイクアップは身嗜みとしてはもちろんかもしれないが、同時に「芸術」としての側面を持っていると言える。

ファッションやヘアスタイルと同様に、男性も女性もメイクアップの「芸術」の側面を通して個性を主張する時代がきているのだ。

 男性のメイクアップはマーケットとして成立するのか?

これまで述べてきたように、K-POPの影響や「男性らしさ」の変化の中で需要が高まっている男性のメイクアップだが、ここでマーケット(=市場)としての男性のメイクアップを捉えてみたい。

マイノリティへの寛容化が進み、K-POPなどの影響で男性のメイクアップも身近になりつつあるが、実際にマーケットに進出しているのはスキンケアやベースメイクなど、「身嗜み」の一環としてのコスメアイテムが多く、K-POPのようにアイメイクやリップメイクが登場しているのを目にすることはまだ少ないと言える。

男性のピアスは長い年月を経て一般化した。写真はジェンダーレスなピアス・イヤリング MR.mimi33

こうした男性のメイクアップをマーケットとして成立させるためには、社会はもちろん、女性の許容が不可欠だ。それでなければ、男性にとってメイクアップはハードルが高いままであり、マイノリティはやはりマイノリティの立場で声を上げ続けるしかなくなってしまう。

似た事例として、男性がピアスを着用する文化が挙げられる。今でこそ、男性がピアスを付けることは社会や女性に許容され、ごく普通のこととなっているが、実は男性のピアスがそのポジションに辿り着くまでに長い年月がかかっている。

しかし、結果的に、現代では男性がピアスを付けることは社会にも女性にも許容されている。ピアスに見たこれまでの社会の変化やK-POPの影響力からも分かるように、男性が女性と同じように鏡の中の自分と向き合い、美しくなる時代は確実に来ている。

というのも、これまで述べてきたK-POPの流行やLGBTへの許容、そして冒頭で述べた「男らしさ」の変化と同時に、女性の求める男性像も変化してきているからだ。これまでは、女性が男性に求める男性像として「優しさ」や、「ステータス」などが主だったが、現在では、女性の99.1%が男性に対して「清潔感」を求めているという。

実際のデータでは、女性に好みのタイプを質問したところ、「頼りがいがある」や「話が面白い」という項目を抑えて、「清潔感がある」と答えている。こうした女性が男性へ求めるものが変化したことも、男性が美しくなる需要の高まりに影響しているのだろう。

さて、ここで気になるのは海外の傾向だ。日本と同様に、海外でもK-POPやLGBTへの許容は進んでいる。寧ろ、日本よりも海外の方がそういったマイノリティへの寛容化は進んでいる。そんな海外においては、男性のメイクアップのマーケットはどれほどの規模となっているのだろうか。

海外における男性のメイクアップ市場

米Yahoo Financeが発表した2020年のデータによれば、男性用のカラーメイクアップ用品の売上高は、2019年から2029年にかけて11%の驚異的なCAGRを達成しているという。さらに、スキンケア製品においてはCAGRが12.3%と成長しており、ここから男性用のカラーメイクアップ用品の成長をも大きく後押しするという予測がなされている。

オーストラリアのシンガーソングライター、トロイ・シヴァン。 @troysivan / Instagram

そうした中で、特に男性のメイクアップ需要が高まっているのはアジアだ。

2018年に配信されたロイター通信のある記事によると、アジアでは、新興の男性用メイクアップ市場に冒頭にあげたようなビッグブランドが集まり始めているという。

また、男性用メイクアップ製品の販売だけでなく、有名ブランドのPRの変化も世間の男性美容への関心に追い風を吹かせている。

ブランドのPRの例として、イギリスの高級ブランドであるBurberryが中国の男性俳優をブランド・ビューティー・アンバサダーに選んだり、中国のコスメブランドであるPerfect Diaryがオーストラリアの男性シンガーソングライターをアンバサダーに起用し、カラフルなアイシャドウを施してブランドのPR動画に出演させるといった変化が出始めている。

バーバリーのリップグロスと上海の俳優、宋偉龍。 supermodel / Shutterstock.com

社会全体において男性のメイクアップ需要が高まっていると言われてる中で、こうした男性化粧品という新しい文化を創り出そうとしていることで、売り上げが急に上がるとは企業としても思っていないというリアルな声がこの記事では取り上げられている。

しかし、アジアの中でもK-POPの発信地である韓国では、K-POPアイドルの持つ女性的な美しさを持ったルックスが広がり、魅力的な男性像が再定義されてき始めていることから、美容に関する考え方がとても進んでいると言われている。韓国の化粧品店であるOlive Youngでは、2017年から2018年にかけて、男性向けの売上が30%増加しているというデータが報告されており、K-POPアイドルの影響によって「少年のような美貌」という文化的傾向が強まっているという。

さらに、韓国では CHANELから発表された「BOY DE CHANEL」のようなシリーズはもう革命的とは言えないとも言われている。というのも、ファンデーションやコンシーラーといったベースメイクやアイブロウといったものはメイクアップというよりスキンケア用品といったイメージがあるようだ。つまり、それほど韓国では男性のメイクアップへのイメージが女性のメイクアップのイメージに近くなっていると言えるだろう。

その韓国の隣国である中国では、JING DAILY によれば、アイドルや性別役割分業規範の変化、またここでもK-POPやLGBTへの許容が進む中で、男性の「美」が再定義されてきている。というのも、中国におけるZ世代の男性たちは自分の容姿や健康に注目するようになり、中国社会全体もこうした男性の傾向を肯定しつつあるのだ。

ここでも「BOY DE CHANEL」が影響を与えたこともあり、2020年の中国では10ブランドの新しい男性美容ブランドが誕生し、2016年から2019年にかけて、中国の男性美容市場は年平均13.5%で増加し、世界平均の5.8%を大きく上回っているという。

そうした流れに乗っかった英国を拠点とするBB クリームとコンシーラーを中心とする男性美容メーカー「Shakeup Cosmetics」では、中国で毎年行われている世界最大のオンラインショッピングイベント「独身の日」において、開催1時間後に158万元(=約2,825万4,649円)もの売り上げを達成した。

また、中国・上海の男性用化粧品ブランドであるJACBは、新型コロナウイルスのパンデミック時に誕生し、6種類のスキンケアや、メイクアップ製品をも70元〜150元(=1000円~2000円)という価格帯で販売している。

だが、この記事では中国の男性用のメイクアップ用品の市場では、まだマーケティングにおいて注意が必要だと述べられている。

というのも、中国のQ&Aサイト「Zhihu」では、「男性が化粧すること」について、多くの人が男性の化粧の最高基準は「見えないこと」と言われているからだ。実際、先ほど紹介した「Shakeup Cosmetics」も、ベストセラーとなったBBクリームのマーケティングメッセージは「化粧していることが誰にもわからない」ということだった。

中国では、男性用メイクアップの新規ブランドが続々と進出しているが、多くの人は「BOY DE CHANEL」や「ESTEE LAUDER」のラボシリーズといった老舗の高級ブランドから出されている男性用メイクアップ用品のシリーズを好んでいるという。その理由には、「新しいブランドは、品質が保証されていない」という意見が多いという背景がある。実際に、スキンケアでは、LOREALやロート製薬といったトップ企業が男性用スキンケアの市場金額の60%を占めているという。

かと言って、男性用メイクアップの新規ブランドが目を向けられていないというと、そうでもない。近年増えてきているブランドは比較的手に取りやすい価格帯のものが多く、製品シリーズも豊富であることから、男性の間で男性用のメイクアップ用品を試すきっかけを作っていると言えるのだ。

こうしたブランドたちの誕生や動きを見ていると、韓国に続いて中国においても、男性のメイクアップ市場が着実に大きくなってき始めているのは確かだろう。

そうしてアジアで男性のメイクアップの需要が高まっている一方で、アメリカの化粧品はいまだに「女性のためのもの」というスティグマが強く存在していると言われている。もちろん、近年の「男性らしさ」の変化によって段々と変化は訪れているが、他国と比べるとアメリカの文化には毒々しい「男性らしさ」が色濃く残っているのではないか、という視点もある。

その点で言えば、スキンケアやニキビなどを隠すためのベースメイク用品はまだしも、アイシャドウやリップなどのカラーメイク用品に手を出せる男性はまだ少なく、メイクアップが広く受け入れられるようになるにはまだ何年もかかると言われている。

K-POPやLGBTの許容が世界中で進んでいる現在でも、そこから発展した「男性のメイクアップ」への許容は国ごとに大きな差がある。その背景には、現在の韓国が持っている、変化した「男性らしさ」と、アメリカが未だに持っている「男性らしさ」の変化のスピードがあるのだろう。

男性用メイクアップの市場の今後

先ほど紹介したように、男性のメイクアップ需要は韓国を中心としたアジア圏が引っ張っており、アメリカなどの他国では未だに許容されるのに時間がかかると考えられる。

これは、日本における男性のピアスが今のように受け入れられるようになるまで長い年月がかかったのと同様に、アメリカでも男性のメイクアップが受け入れられるのに長い年月が必要なのだろう。

しかし、「男性らしさ」が変化し、マイノリティが声をあげることができるようになってき始めた現代においては、個人の主張を尊重する社会はもちろん、経済としてその社会が成り立つ状況を作っていかなければならない。そうでなければ、LGBTをはじめとするマイノリティへの許容は机上の空論となり、ファジーな形で宙に浮かんだ概念となってしまう。

そうした個人の主張や自己表現が、社会や経済で認められるためには、それを強く推し進めていく人が必要不可欠だ。

実際、LGBTにおいてもSNSなどでLGBTの許容を訴えたり、自身がLGBTであることをオープンにすることで、自分自身の考え方や主張を世間に広げる人々が増えている。こうした人々によって、従来よりも着実にLGBTヘの許容が進んでいると言える。

同様に、男性のメイクアップを後押ししたのも、韓国から生まれたK-POPの人々だと言えるだろう。

その流れに乗っ取り、最近では一般男性がドラァグクイーンのようなメイクから一般的な女性と同様な工程を踏まえたメイクを自身に施し、SNSで大きな反響を得ていたり、kemioがベースメイクを主としたコスメブランドを立ち上げたりと、押し進めていく人は段々と増えてきていると考えられる。

これからは、日本でもそうした人々によって、韓国のようにメイクアップをすることで自己表現をすることを許容される風潮が生まれていくだろう。

この風潮はいずれ、K-POPに似たアイドルや芸能人の登場、また一般人でもSNSで自己表現をする人々が増えるにつれて、社会や経済に徐々に影響を与え、これまで考えられもしなかった男性のメイクアップという市場はさらに拡大していくと考えられる。 

(TEXT:Sachi Yamaguchi)

参考資料

Robb Report 『Makeup for Men? How Male Cosmetics Became a Booming Industry』

Yahoo Finance『Sales of Male Colour Cosmetics Poised for an Impressive 11% CAGR over 2019-2029; Facial Products Witnessing Solid Traction, Finds a New FMI Study』

REUTERS『In Asia, nascent men’s make-up market starts drawing big brands』

JING DAILY『What China’s Male Beauty Market Will Look Like In 2021』

The japan times『Defining masculinity in a brave new world of despair』

The Guardian『What toxic men can learn from masculine women』

The Guardian『Making Modern Masculinity: ‘It felt like we needed to build bridges’』

The Atlantic『The Problem With a Fight Against Toxic Masculinity』

現代ビジネス『「有害な男らしさ」という言葉に潜む「意外な危うさ」を考える』

ELEMINIST『性差別につながる「有害な男らしさ」とは ステレオタイプが生み出す無意識のプレッシャー』

The New York Times『What Is Toxic Masculinity?』

HANABI『Is Your Masculinity Toxic?』

The New York Times『His Eye Makeup Is Way Better Than Yours』

PR times『女性の99.1%が男性の「清潔感」を重視して「交際できるかどうか」判断していると回答。』

telling.『トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)とは?』

GRAND VIEW RESERCH『Men’s Personal Care Market Size, Share & Trends Analysis Report By Product (Skincare, Personal Grooming), By Distribution Channel (Hypermarket & Supermarket, Pharmacy & Drug Store, E-commerce), By Region, And Segment Forecasts, 2020 – 2027』

VOGUE BUISINESS『Everyone wants in on men’s beauty』

fmi『Male Colour Cosmetics Market』

Cosmetics design-asia『Male Colour Cosmetics Market』

Bloomberg Businessweek『A Wild, Emotional Year Has Changed Investing—Maybe Forever』

NRF『The rise of men’s cosmetics and brands making their mark』

WWD『The Rise of Makeup for Men』

14ideas『Makeup for Men: A Growing Industry』

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